2025年8月号(子どもたちの持つ可能性)
子どもたちの持つ可能性!
~保育園は、ウェルビーイング実現の担い手~
園長 中村 洋志
今年は例年以上に早く梅雨が明け、酷暑の夏が続いており、私たちの生活にも大きな影響を与えています。子どもたちは、この暑さに負けないぐらいのパワーを発揮しながら確実に成長の階段を登っています。私たちは、その成長の一番の基礎となる大切な部分を担っているなだという自覚と誇りを持ちながら、日々子どもたちと向き合っていきたいと考えています。
第153回芥川賞受賞作家の又吉直樹氏の「花火」の一節に「土台、俺たちは同じ人間やろ?間違っている人間がおったら、それ面白くないでって教えたらな。人が嫌がることは、やったらあかんって保育所で習ったやん。俺な自慢じゃないけど、保育所で習ったことだけは、しっかり出来ていると思うねん。全部じゃないかもしれへんけどな。ありがとう。ごめんなさい。いただきます。ごちそうさまでした。言えるもん。俺な、小学校で習ったこと、ほとんど出来てないけど、そういう俺を馬鹿にするのは大概が保育所で習ったことも出来ていないダサい奴らやねん。」という文章があります。幼児教育関係者の多くは、ロバート・フルガム氏の『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』の一節を思い出したのではないかと推察しています。1988年に米国で出版された最初の1年だけで400万部を記録し、翌年に日本でも出版され大きな反響を呼んだ本であり、幼児教育の重要性が再認識された本でもあることから、私も何度も繰り返し読んだ記憶があります。
わが国でも遅ればせながら、先般「こども家庭庁」が、「初めの100か月間の育ちのビジョン」の中心に、「人の幸せは、身体や心に加え、その人を取り巻く環境や社会の状況がよい状態であるときに感じられるという考え方=ウェルビーイング」があることを示しました。母親が子どもを妊娠してから小学生までの100か月が、人生の基盤をつくる重要な時期であるという考えのもと、子どもにかかわる上で大切にしたい考え方をまとめたものです。子どもであれば、適切な食事や睡眠、遊びなどによって身体の健康が保たれ、精神的に安心・安全な状態にありつつ、自立が促されるサポートを受け、さらに家庭や保育園や幼稚園・こども園、地域等の中で良好な関係が築かれれている、といった状態が想定されます。保育園は、そうした子どものウェルビーイングを実現するための重要な担い手であることを自覚し、子どもたちと向き合う必要があることを肝に銘じています。
ややもすると、保育園・幼稚園・こども園→小学校→中学校→高等学校→大学→大学院という段階を、レベルで考える傾向がありますが、私は「レベルではなく、役割だ」と考えています。ロバート・フルガム氏も「人生に必要な知恵は、大学院という山のてっぺんにあるのではなく、すべて幼稚園の砂場にあった」と述べています。私自身保育園・幼稚園での取組、小中学校・高等学校・大学での授業や講義を経験していますが、実は、年齢が下がるほど教えることは難しいことを体感しています。それぞれの年齢や発達段階、極端に言えば個々人によって支援や指導の仕方は全く異なります。難しいことですが、だからこそ一人一人に応じた適切な支援や教育が求められているのだと思います。