2025年5月号(小さな成長を認め・励ます!)

小さな成長を認め・励ます!
~落ち着きのない行動は発達の原動力かも~

園長 中村 洋志

青葉が目に映える5月の爽やかな風が保育園を包み込んでいます。その中で、子どもたちは懸命に「今」という時間を生きているように感じます。どの子も輝く「いのち」を持ち、イキイキとした姿で毎日を精一杯生きています。子どもたちの見せるしぐさや笑顔は、私たち大人の気持ちを和ませてくれます。混沌としてなかなか先行きの見えない時代ですが、いつも子どもたちは、私たちに明るい未来を予感させてくれます。

保護者の方々から「うちの子どもが、なかなか集中力がなくて困っています。なぜ、子どもってすぐ気が散るのでしょうか。」という類の質問を受けることがあります。実は、集中力がないといっても、様々な要因があります。「じっとしていないで、身体をいつも動かしている」とか「他のことに気が散り、一つのことに集中できない」とか「身の回りの多くのことに関心を持ちすぎて、飽きっぽい」とか様々です。子どもは本来、移り気であり、落ち着きのない存在です。新しいものに関心を持ち、珍しいものに注意を向けるのが子どもたちの特徴です。子どもたちの興味の対象は、次から次へと移り、飽きることを知りません。私たち大人から見れば、集中していないように見えるこのような行動も、子どもたちにとっては当たり前の行動な場合が多いのです。このような経験を通して、内在する能力を発達させていきます。「ひょっとしたら、落ち着きのない行動の中に、発達の原動力があるのかも」と考えることすらあります。

幼児期の行動の中では落ち着いていることばかりが、必ずしもよいことばかりではありません。慎重すぎてなかなか行動に移せない子どもとか、身の回りの出来事にあまり関心を示さない子どもの方をかえって心配することがあります。どの程度の落ち着きのなさかにもよりますが、大切なことはその時の状況を把握し、タイムリーに支援していくということだと考えています。一般的に、落ち着きのない原因には3つあると言われています。第一は心理的な原因です。緊張し過ぎるために、運動神経がうまく働かず、手が震えたり、つまづいたりすることがありますが、それが一見、集中力がないように見えてしまうことです。この場合は、「気を付けて」とか「落ち着いて」などと注意するのではなく、気を楽にしてあげることの方がいいと言われています。第二は身体的な原因です。基礎体力がないとか、偏食とか、睡眠不足等の原因があると、自己コントロールが難しくなり、結果として飽きっぽくなったり、じっとしておられなくなったりすることがあります。このような子どもは、生活習慣を見直せば、行動も改善されると言われています。第三は環境的な原因です。とりわけ、子どものまわりにいる大人(特に保護者や保育士)からの影響は無視できません。実際、親や保育士が落ち着きのない態度をとると、子どもはいつの間にか真似して、落ち着きのない性格を身に付けてしまうことがあります。

簡単な解決方法はありませんが、子どもたちにただ「落ち着きなさい」というだけでは効果はあがりません。大切なことは、「子どもが,いつもよりも少しでも長く集中できた際には、タイムリーに認め・励ましてあげる」ことが有効だと言われています。子どもは、何か一つでも集中することを覚えれば、それを繰り返すことで、他のことにも集中していけるようになります。誠に忙しい世の中ですが、まず大人が成果を急ぎ過ぎることなく、ゆったりとした気持ちで見守っていく姿勢が求められいるようにも思います。